コロナ禍の影響で小売業の売り上げは大幅に低下しましたが、ECサイトが普及したことで新しい小売業の形が確立され、新たなトレンドやビジネスモデルも登場してきています。
しかし、小売業が生き残っていくためにはいくつか課題があるのも事実です。
この記事では、小売業のトレンドや課題、解決策について解説します。「小売業は将来どうなる?」「小売店業が生き残るためにはどうしたらいい?」など、小売業の未来に不安を感じている人や、実店舗の出店を計画している人は、ぜひこの記事を参考にしてください。
小売業のトレンド6選
1.オンラインとオフラインの融合
オンラインとオフラインを融合させた「オムニチャネルマーケティング」が重視されてきています。オムニチャネルは、ECサイトでも実店舗でも、あらゆるチャネルで一貫した購買体験を提供するマーケティング手法で、顧客満足度を高め購買へとつなげます。
具体的には、以下のような例が挙げられます。
消費者は利便性の良い方法をスムーズに選択できるため、満足度が向上する傾向にあります。また、実店舗と自社ECサイトを連動させることで、実店舗を訪れた消費者が同一の商品を他社ECサイトで購入するショールーミングを防ぐことができるのもメリットのひとつです。
2.決済方法の多様化
消費者の幅広いニーズに応えられるよう、さまざまな決済方法を導入する小売店が増えています。たとえば、電子マネーやQRコード決済、バーコード決済などのモバイル決済です。
決済方法を多様化させることで、消費者が希望する決済方法に対応していないことから起きる機会損失を防ぐことができます。
3.サステナビリティへの意識
昨今では、サステナビリティやSDGsへの関心が高まっているため、長く使える商品や環境に配慮した取り組みが消費者から支持される傾向にあります。
しかし、実際はサステナビリティを意識した取り組みまで手が回っていない小売業者も多く、以下のような取り組みをすることで、競合他社と差別化することができます。
消費者は製品やサービスだけでなく企業の取り組みも評価しているので、サステナビリティに対する取り組みを適切に伝えることで、企業へのロイヤリティや顧客満足度の向上につながります。
4.AIの導入
店舗運営を効率化させるためにAIを積極的に活用する小売店も増えています。たとえばスーパーでは、在庫管理や需要予測にAIが利用され、個人の感覚で行われていた作業をAIが代行することで適切な量の仕入れが可能になりました。過去の販売実績や販促活動をもとに仕入れを行えるため、過剰な在庫を抱える心配もありません。
また、問い合わせ対応にAIを活用する事例も増加しています。AIボットを導入することで、24時間365日消費者に対応できるようになり、顧客満足度の向上に加え人件費などカスタマーサービスにかかるコスト削減にもつながっています。
5.SNSの活用
企業もInstagramやYouTube、TikTokなどさまざまなSNSを利用するようになり、インフルエンサーマーケティングなどにも注目が集まっています。
上記のような調査結果もあり、インフルエンサーによる宣伝や一般ユーザーによる投稿を活用することで、消費者目線での商品の魅力を伝えやすくなり、効果的に宣伝できます。また、企業が主体となってSNSを活用する方法としては、商品画像の投稿やSNS広告の運用、Instagramのショッピング機能などがあります。ショッピング機能は、企業が投稿してタグ付けした商品を消費者が簡単に購入できる機能です。SNSの効果的な活用によって、商品の魅力を伝えられるだけでなく、新たな販路の開拓にもつながります。
6.パーソナライズされたサービスの提供
誕生月の割引クーポンや購買履歴に基づいたおすすめ商品の表示のようなパーソナライズされたサービスに注目が集まっています。顧客の属性や趣味嗜好に合わせて提供されるサービスは、顧客の定着率向上にも効果的です。
ある調査では、パーソナライズされたサービスを提供された顧客の44%が、もう一度店に足を運びたいと回答しています。また、4分の3の顧客が好みや価値観などの情報を提供しても良いと回答していることから、多くの人が自分に合ったサービスを受けたいと感じていることがわかります。
こういったサービスをきっかけにより多くの顧客データが集まれば、より良いサービスやニーズに合った商品の提供にもつながり、さらに顧客満足度や購買意欲が高まる、という好循環をうみだすことができます。
小売業が直面している3つの課題
1.商品が売れにくい
近年の小売業は業界全体として売り上げが停滞している傾向にあります。主な理由は以下のとおりです。
2022年以降はロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、原材料や燃料が高騰し、物価が上昇しています。一方で、2021年の1世帯あたりの平均所得は545万7,000円であり、給与所得は10年間ほとんど変化していません。また、保険料や税金などの負担率は年々上昇し、令和5年度には46.8%に達する見通しです。
これらの結果から、消費者が使えるお金が減っており、商品が売れにくい現状が生まれていることが明らかになっています。
また、トレンドサイクルが短期化しているため、トレンドに合わせた商品を取り扱わないと商品が売れにくくなっています。
さらに、サブスクリプションサービスが普及してきたことで「モノを所有する」から「必要な時にモノを利用する」考え方に変化してきていることも、商品が売れにくくなった要因のひとつです。
2.人手不足の深刻化
小売業では、離職率が高い傾向にあることに加え、求人への応募率が低いため慢性的な人手不足が続いています。日本全体で少子高齢化が進み、労働人口が減っているのに加え、実店舗の場合は営業時間が長く、土日も出勤する必要があることも多いため、ワークライフバランスが取りにくいといった理由から求人への応募が来にくいのが原因です。
2022年に総務省統計局が行った調査でも、小売業の就業者数は2021年よりも25万人減少しています。
3.消費者行動の変化
コロナ禍をきっかけに、それまで実店舗で購入していた品物もECサイトで購入する消費者が増えてきました。コロナ禍以前もネットショッピングは一般的になっていましたが、現在では食料品をはじめとする日用品もECサイトで購入する人も少なくありません。そのため、実店舗でしか展開していない小売業は、ECサイトとの両立が課題となります。
小売店が生き残るためにできる4つの解決策
1.ECサイトの展開
売り上げが低迷している小売業が将来的に生き残っていくためには、ECサイトとの両立が欠かせません。
実店舗しか運営していなかった小売業がECサイトも展開することで、より幅広い消費者をターゲットにできるため、売り上げの上昇が期待できます。実店舗とECサイトを兼ね備えれば、店舗で直接商品をみたい人、ネットで買い物を済ませたい人、実物をみてからネットで購入したい人などの多様な消費者行動に対応でき、販売機会の損失も防げます。
加えて、ECサイトで販売した商品を実店舗で受け渡しする「BOPIS(ボピス)」と呼ばれるサービスの導入もおすすめです。消費者が商品を受け取る際、店舗で新たに商品を購入するついで買いを促す効果が期待できます。
2.オムニチャネル化
オムニチャネル化し複数の販路を総合的に管理・活用することで、販売機会の損失を防ぐだけでなく、業務効率化や人手不足の解消にもつながります。
たとえば、実店舗で在庫がみつからなくても、ECサイトに在庫があればその場で決済を行い、自宅への配送を手配できるなど、各チャネルが連携することで機会損失を防ぎ、購買体験を高めることができます。また、顧客IDも一元管理することで、ECサイトの購入履歴から実店舗でより消費者の好みにあった提案を行なうなど、パーソナライズされたサービスを提供することもできます。
実店舗とECサイト、SNS、アプリなどのすべての販路を連携させることで顧客満足度も上がり、売り上げの向上にもつながるでしょう。
加えて、チャネルごとに管理していた在庫や受発注業務などもすべて一元化することで、業務の効率化や人手不足の解消も期待できます。
3.DXの推進
DX(デジタルトランスフォーメーション)とはデジタル技術を活用した業務効率化のことで、DXを促進させることで、小売業の課題のひとつである人手不足の解消につながるほか、効率化によって生まれた時間を顧客との有益なコミュニケーションやサービスの提供にあてられます。
たとえば、セルフレジを導入することで、会計に関する人員を割く必要がなくなり、業務負担が軽減できます。また、業務負担が軽減することで、ワークライフバランスが整い、離職率の低下にもつながるでしょう。加えて、AIが在庫管理や受発注業務を担えば、人為的なミスを防ぐ効果も期待でき、経験年数に関係なく人材を配置できます。
また、空いた時間を有効活用して、顧客満足度を向上させる施策を考えられるため、売り上げの向上にもつなげることができます。
4.付加価値のある店舗作り
消費者に継続して利用してもらうためには、付加価値のある店舗作りが重要です。たとえば、独自の仕入れ先を利用したプライベートブランドの展開やその店舗でしか配られないノベルティなどの付加価値を提供することで、他店との差別化につながります。
その店やブランドにしか提供できない取り組みをすることで、消費者に商品を選んでもらいやすくなるでしょう。
小売業はなくなるのか
小売業がなくなってしまうことはありません。ECサイトの需要拡大により、小売業の中でも特に実店舗がなくなることを不安に感じている事業主もいるかもしれませんが、直接商品を見て確かめられる、商品について直接店員に質問できるなど実店舗にしかない強みがあります。
たとえばアパレルショップの場合、同じサイズ表記でも、着心地がタイトかゆったりかなどは商品によって異なり、着用してから購入したいと考える消費者は多くいます。また、試着をして雰囲気の良し悪しを店員に相談したいと考える消費者もいます。このような消費者の欲求に応えられるのは実店舗の大きな強みで、そういった消費者の需要がある限り実店舗がなくなることはありません。
しかし、コロナ禍の影響で実店舗の売り上げが減少しているのも事実です。そのため、売り上げが上昇傾向にあるECサイトと実店舗を両立させることで、それぞれの強みを活かすと同時に弱みも補完し合い、売り上げを上げて生き残ることができます。
小売業の未来の市場予測
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2030年の小売業の市場規模は114兆9,770億円と予想されています。2022年と比較すると約14%市場規模が縮小する見込みです。
減少の理由としては、ECサイトの需要拡大が見込まれる一方で、2030年には物流を担っているドライバーが不足するため、配送に対応しきれなくなることが挙げられます。
物流網の改善は大きな課題であるものの、配送に頼らない仕組み作りも欠かせないでしょう。そのため、2030年に向けてBOPISの導入を進め、ECサイトで購入した商品を実店舗で受け取る仕組みを強化するのも重要です。
また、2030年には外国人旅行者数6,000万人を目標としているため、免税対応や多言語対応などのインバウンド市場の拡大に対応できるような取り組みも重要となります。拡大予定のインバウンドの需要に対応することで、小売市場の売上上昇にもつながるでしょう。
まとめ
小売業はECサイトとの両立やオムニチャネル化、DXの促進などによって、実店舗の売上減少や人手不足などの課題を克服することができ、今後も生き残ることが可能です。
コロナ禍の影響で実店舗の売り上げは大幅に減少しましたが、ECサイトの売り上げは上昇傾向にあります。オンラインとオフラインの境界をなくして一貫した購買体験を提供することで、相乗効果や機会損失の防止によって売り上げを向上させることができるでしょう。
また、AIの導入などDXが進めば限られた人員でも効率よく店舗運営ができ、小売業の課題である人手不足の解消につながります。
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よくある質問
小売業とは
卸売業者などから仕入れた商品を消費者に販売するBtoCのビジネススタイルです。主な小売業としては以下の例が挙げられます。
- コンビニエンスストア
- 専門店
- 家電量販店
- ドラッグストア
- スーパーマーケット
2023年の小売業の販売額は?
2023年の上期の小売業全体の販売額は、2021年の上期から5.9%増加した79兆2,530億円でした。
業態別では、コンビニエンスストアやドラッグストア、スーパーマーケット、百貨店の販売額が増加傾向にあります。これは、コロナ禍が落ち着き、外出機会が増え、インバウンドの需要が回復したことが理由です。
実店舗が今後なくなる可能性はあるのか
実店舗が今後なくなる可能性はありません。商品を直接みて確かめられるのは、ほかには変えられない実店舗の強みです。
しかし、実店舗の売り上げは減少傾向にあるため、今後はECサイトとの両立が求められるでしょう。