最近、D2Cという言葉をよく耳にしませんか?Instagram(インスタグラム)などを利用したSNSマーケティングなど、オンラインで売り手が消費者に直接アプローチする方法が注目を集めている中でも、より高い収益が見込めるD2Cが小規模事業者や大手メーカーからも注目されています。
今回は、D2C導入のメリット・デメリットや成功事例を紹介し、D2Cビジネスを成功させるポイントについて探ります。
D2Cとは
D2C(ディーツーシー)とは、「Direct to Consumer」の略で、メーカーやブランドが自社で企画・製造した商品を、問屋や小売業者などを介さずに、自社のECサイトを使って直接(Direct)消費者(Consumer)に販売する仕組みです。
従来のビジネスモデルでは、メーカーやブランドと消費者の間には小売業者や大手販売プラットフォームなどが入りますが、D2Cでは自社製品を自社サイトで販売するため、消費者との間に第三者が入ることがありません。そのため、ブランディングやロイヤリティの構築がしやすく、カスタマーサービスや購買体験など商品以外の付加価値をつけやすくなっています。
D2Cと従来のビジネスモデルの違い
D2Cと従来のビジネスモデルの違いは、商品が消費者に届くまでに複数の企業が関わっているかどうかにあります。従来のビジネスモデルでは、企業が商品を企画・製造した後、卸売業者や代理店、小売店などに商品が渡り、そこから消費者へと販売されるのが通例でした。しかし、D2Cでは製造した企業と消費者の間に他の企業が入らず、製造から販売までを自社で一貫して行います。
従来のビジネスモデル:商品が消費者に届くまでの工程ごとにその業務を担当する企業が異なる。
- メーカーが企画、製造、マーケティングまでを担当
- 卸や小売が商品の仕入れを担当
- 店舗が販売を担当
D2C:企画、製造、マーケティング、サイト運営、消費者への配送まで、全てを一貫して自社で行う。
そのため、担当制の従来型ビジネスモデルで必要となるサプライヤーなどとの情報共有やコミュニケーションがなくなり、代行料や手数料などのコストも抑えることができます。
日本におけるEC市場とD2Cの市場規模
D2Cが注目される背景には、インターネットの普及に伴ってEC市場が拡大していることがあります。物販分野においては、2022年の市場規模が13兆9,997億円(うちEC化率9.13%)で、コロナ禍の2021年度と比べて5.37%増えています。その中で、自らネットショップを立ち上げてD2Cに挑戦する事業者も増えており、今後も市場が拡大していくことが予想されます。
D2Cのメリット
作り手の想いを顧客に伝えられる
D2Cはメーカーが直接消費者に商品を販売するため、作り手の商品に対する想いを自身の思い描く方法で伝えることができます。
間に小売業者などが入る場合、関連業者との契約内容などによっては伝えられる情報に制限がかかることもあります。しかし、D2Cであればそういった制約がなく、開発のきっかけや販売に至るまでの経緯だけでなく、販売を開始している状態でも裏話やお願いなど作り手の想いや考えを直接伝えることができます。そういったストーリーを作り手自身の言葉で伝えることで、より顧客に伝わりやすくなり、共感を得たりファンになってもらったりすることもできます。
顧客データをもとに商品やサイトを改善できる
D2Cでは、顧客の属性や購入履歴、EC内での動きなどの詳細な情報を直接入手することができるため、そういった顧客データを商品開発に生かすことができます。また、売り手と顧客との距離が近いので、顧客のフィードバックをスピーディーに商品やサービスに反映させることができ、顧客満足度を高めることもできます。さらに、滞在時間などの顧客データも参考にすることで、より売れやすいECサイトへの改善や、効率的なマーケティングを行うことも可能になります。
自由度が高くブランドイメージを作りやすい
ウェブサイトのデザインやSNSでの投稿方法、キャンペーンの実施方法など、顧客に商品の魅力を伝える方法に制限がなく、ブランドイメージを構築・維持しやすいのもD2Cのメリットの一つです。
ウェブサイトを特定の色で統一させたり、キャンペーンによってデザインを一新したりするなど、ECモールでは制限がありできないようなことも自由に行えます。また、マーケティングや販売促進の施策なども独自の判断で行うことができるため、インフルエンサーマーケティングやロゴ入りステッカーなどの販促物配布など、ブランド認知度を上げるためのさまざまな方法を試すことも可能です。
収益化しやすい
D2Cは製造から配送手配まで自社で行うためコストの管理がしやすく、効率的に収益化につなげることができます。
D2Cでは中間業者が存在しないので、中間マージンや流通コストを大幅に削減し、利益率を高めることができます。また、価格設定や製造コスト、マーケティングコストなどの変更も自社内で検討し判断できるので、薄利多売に向いている商品や質を重視した商品など商品に合わせて柔軟に予算を設定し、売り上げの向上につなげることも可能です。例えば、よく売れる商品の利益率を上げ、その売り上げで質を妥協したくない商品に費用をかけたり、競合他社と価格競争が発生した場合に、すぐに配送コストなどを見直して価格を下げたりすることができるでしょう。
D2Cのデメリット
集客に苦労する可能性がある
大手ECモールへの出店と比べるとどうしても認知度と露出度が劣ってしまうので、集客するまでに時間がかかる可能性があります。SNSマーケティングや広告を活用して自力で集客しなければならず、SNSを定期的に更新する人件費や広告運用のためのランニングコストがかかります。効率的に集客するためには、マーケティングを行ってPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回しながら常に改善していきましょう。
初期投資が他業態より高くなる可能性がある
D2Cでは販売プラットフォームを一から作るため、サイト構築などの初期投資が高くなる傾向があります。自社内にD2C環境を構築できる人材がいない場合、サイト構築を外注することになるためその費用はより高額になります。
また、サイト構築後の運用やメンテナンスなども自社で行わなければならないため、そのための人件費などランニングコストもかかります。ShopifyのようなECサイト構築プラットフォームを利用すれば、自社内で簡単にD2Cサイトを構築でき、初期投資を抑えることができます。
日本のD2Cサイト・ブランド成功事例
- COHINA <売り手が見えるアパレルブランド>
- RiLi <顧客とのコミュニケーションから作るファッションサイト>
- Mr. CHEESECAKE<自社ECでブランディングをしたチーズケーキ>
- SOÉJU <ECサイトの機能を活用するアパレルブランド>
- BASE FOOD <ロイヤリティを成長につなげる宅配サービス>
- 土屋鞄製造所 <EC事業に参入した老舗ブランド>
- objcts.io <顧客との対話を重視するレザー製品ブランド>
- HushTug <D2Cで高品質低価格を実現したレザーバッグ>
- 煎茶堂東京 <新しい日本茶を企画し届けるお茶専門店>
- Allbirds <ブランディングに成功したエコシューズ>
COHINA <売り手が見えるアパレルブランド>
COHINA(コヒナ)は、アパレル業界未経験の女性2人が「小柄な女性にぴったりの服を届けたい」との想いから立ち上げたブランドです。創業者の一人である田中絢子さん自身も自社ECサイト内でモデルとして商品の魅力を伝えています。また、毎日行われるインスタライブで顧客との双方向コミュニケーションを大切にしており、顧客の声をより良い商品開発につなげています。
インスタグラムのフォロワーは約22.8万人(2024年7月時点)にまで増加し、ロイヤリティの高さからもD2Cとして成功していることが伺えます。
RiLi <顧客とのコミュニケーションから作るファッションサイト>
10〜20代の若い女性から支持されているファンションサイトのRiLi(リリ)は、顧客と直接コミュニケーションを取ってニーズを察知し、それを自社ECサイトに直接反映しています。RiLi は、ユーザー参加型のオウンドメディアRiLi TokyoでUGCなど共感を呼ぶコンテンツを活用して顧客のニーズを察知し、ECサイトRiLi Storeでの商品展開などに生かしています。
商品を売るためにコンテンツを作るのではなく、コンテンツを通した顧客とのコミュニケーションをヒントにニーズの高いものを売ることで成功しています。
Mr. CHEESECAKE<自社ECでブランディングをしたチーズケーキ>
Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)は、2018年にシェフ自らが立ち上げたチーズケーキ専門のオンラインショップです。自社ECサイトでのオンライン販売に特化しており、自宅でスイーツとゆっくりと向き合う「非日常の体験」を提供するため、Aboutページなどを利用したブランディングも行っています。その結果、2020年のコロナ禍には完売が続出するほどの売り上げにまで成長しました。
SOÉJU <ECサイトの機能を活用するアパレルブランド>
SOÉJU(ソージュ)は、プロによるスタイリングも提供するアパレルブランドです。オンラインでのパーソナルスタイリングでのノウハウをもとにアパレルブランドを立ち上げ、D2CのECサイトをオープンさせました。予約販売の機能も持たせるなど顧客の利便性向上のためにECサイトを柔軟にカスタマイズし、ビジネスを成長させています。
BASE FOOD <ロイヤリティを成長につなげる宅配サービス
主食だけで栄養を補える完全栄養食を提供するBASEFOOD(ベースフード)は、創業者のIT企業勤務時代の多忙な生活で得た気づきをベースに事業を展開しています。「主食をイノベーションし健康をあたりまえに」という明確なミッションを自社サイトで伝えることで、それに共感する人々がファンとなり急速な成長につながっています。BASEFOODは顧客を「革命を起こす仲間」と位置づけ、メルマガやSNSを通じてブランドロイヤリティをさらに高めてD2Cを成功させています。
土屋鞄製造所 <EC事業に参入した老舗ブランド>
土屋鞄製造所は1965年にランドセル作りを開始した老舗ブランドです。EC事業を開始した当初は外部委託していましたが、次々に変化していくマーケティングのニーズと方法に対してスピーディーな対応が必要だと気づき、Shopifyを導入して自社内でのサイト構築を進めました。ECサイトでは伝統あるランドセル作りの知見をAboutページなどで伝えることでブランド構築に生かしています。加えて、Instagramなどを利用したSNSマーケティングなども行う柔軟性がD2Cで成功した秘訣と言えるでしょう。
objcts.io <顧客との対話を重視するレザー製品ブランド>
objcts.io(オブジェクツアイオー)は、土屋鞄製造所出身者が立ち上げたレザー製品ブランドで、創業者の土屋鞄での体験をもとに、顧客との対話を重視したD2Cサイトを運営しています。商品企画では顧客との密接な関係を重視し、メッセージアプリでのヒアリングやショールームでの対話を行うなどして顧客の声を反映させています。また、自社ECサイトで製品開発ストーリーを伝えたり、ShopifyのAR機能を活用したりするなど、オンラインでの充実したショッピング体験も提供しています。
HushTug <D2Cで高品質低価格を実現したレザーバッグ>
HushTug(ハッシュタグ)は、自社で製造から販売までを管理するD2Cモデルを採用することで、製品の質や職人の報酬を下げずに高品質でも手が届きやすいレザーバッグを提供しています。また、創業のストーリーやブランドの理念などを創業者の言葉で丁寧に伝えることで、顧客の共感やロイヤリティが生まれやすくなっています。
煎茶堂東京 <新しい日本茶を企画し届けるお茶専門店>
元IT業界のデザイナーが手掛ける煎茶堂東京は、生産者と協力して製品を企画し消費者に直接販売するD2Cビジネスモデルを採用しています。創業者の青栁智士さんと谷本幹人さんは、日本茶が「茶道」と「ペットボトル」に二極化している現状に異議を唱え、単一農園・単一品種の煎茶にこだわった新しい日本茶を企画しました。また、パッケージデザインや使い勝手の良い急須など、茶葉だけでなくお茶に関わる商品も自社で企画し販売しています。
Allbirds <ブランディングに成功したエコシューズ>
Allbirds(オールバーズ)は、米タイム誌に「世界一快適なシューズ」と評価されたこともあるシューズブランドです。デザインだけでなく履き心地の良さやサステイナビリティにこだわり、エコで快適なシューズというブランドを自社ECサイトなどを通じて確立しています。また、消費者からのフィードバックをもとに細かく商品をアップデートしており、顧客の声を直接聞くことができるというD2Cの利点を生かしているのも成功のポイントです。
D2Cが実現できるプラットフォーム一覧
Shopify
Shopifyは世界170か国以上かつ数百万ショップ以上に利用されているEコマースプラットフォームです。豊富なデザインテンプレートや決済手段などを提供しているため、ウェブ制作の知識がなくても簡単にネットショップを開設できます。D2Cで重要となるマーケティングに必要なツールや、再入荷通知や予約販売など購買体験を向上させるツールもアプリで入れることができ、カスタマイズ性が高いのも特徴です。初期費用がかからず月額課金制で、ECサイトを手軽に構築できるので、初めてネットショップを運営する人におすすめです。
BASE
BASEは年会費や月額費用が無料で手軽にネットショップを作成できるプラットフォームです。誰でも簡単にネットショップを開設できるサポート体制が整っており、商品が売れた時に決済手数料とサービス料がかかる仕組みなので、販売数が少ないオーナーやD2Cを試験的に始めてみたい事業者におすすめです。
STORES
STORESはスマホからでも手軽にネットショップを開設できるプラットフォームです。無料のフリープランと月額2,980円のベーシックプランが用意されています。レビュー機能もあるため、顧客のフィードバックを得やすくなっています。主にスマホで運用を行いたいオーナーには使い勝手が良いでしょう。
MakeShop
MakeShopは業界No.1の機能数と自由度の高さを売りとしているプラットフォームです。初期費用や月額費用が発生しますが、販売手数料は無料のため、売り上げが多く見込める場合におすすめです。ECサイト運営が初めての方のためのサポート体制も整っているので、ECサイト運営に予算を取れる場合は利用してみると良いでしょう。
futureshop
futureshopはオムニチャネル戦略が可能なプラットフォームです。実店舗との連携はもちろん、ライブコマースやSNSとの連携もできます。ロイヤリティを高める会員ステータス機能などの機能も充実しており、経験豊富なECアドバイザーからサポートも受けられます。ECサイトだけではなく包括的にD2Cビジネスを成長させたいオーナーにおすすめです。
ショップサーブ
ショップサーブは、ECサイト構築だけでなく、プロモーション支援、制作代行などのサービスも提供しているプラットフォームです。25年以上にわたって業界で積み重ねてきたノウハウがあるため、ブランディングやサイト改善など、ECサイト構築だけではなくマーケティングやサイト運用も任せることができます。自社内にサイトを管理できる人材がいない場合などにおすすめです。
カラーミーショップ(GMOペパボ株式会社)
カラーミーショップは月額費用がかかりますが、開店時のサポートや開店後も受けられる電話サポートなどサポート体制が充実しています。WordPressとの連携も可能で、顧客をファン化するコンテンツの作成なども可能です。
まとめ
ECサイトの種類の一つであるD2Cは、顧客との距離が近くコミュニケーションがとりやすい点が特徴です。顧客とのコミュニケーションを生かして製品に反映させることで、顧客満足度を高めてEC事業を発展させることができるでしょう。D2Cの要となるECサイトは、Shopifyのような集客のためのマーケシングツールや顧客の購買体験向上のための機能などがそろったプラットフォームを利用して構築するのがおすすめです。新しいビジネススタイルを模索している方は、この記事を参考にD2Cビジネスをスタートしてみてください。
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よくある質問
D2Cのメリットは?
作り手の想いを顧客に伝えられること、顧客一人ひとりの声や顧客データを商品やサービスに反映できること、自由度が高くブランディングやマーケティングがしやすいことが挙げられます。
D2CとB2Cの違い
D2CとB2Cでは商品の企画、製造から売り上げまでの流通過程が異なります。D2Cは、自社が企画や製造した商品を、仲介業者を介さず自社サイトで消費者に直接販売します。一方B2Cは、企業のサイトや既存のプラットフォームで商品を消費者に販売しますが、その商品は自社製品ではなく、商品の企画や製造は別の企業が行っている場合があります。
文:Ryotetsu