商品に実際に触れることのできないネットショップにおいては、商品写真のできばえが、顧客の購買行動を左右します。商品の売り上げを伸ばすには、顧客の目をひき、さらに商品の魅力を最大限に伝えるような、質の高い商品写真を用意する必要があります。
もちろん自分のブランディング戦略にあったプロを探し、撮影を依頼すれば、すばらしい写真を撮ることはできますが、これまでに写真を撮った経験がない人でも、適切な機材をそろえ、商品撮影の方法やテクニックを知れば、品質の高い商品写真を撮ることができます。この記事では、自宅で美しい商品写真を撮影するために必要な機材や、撮影の方法をまとめました。
商品撮影に必要なもの
カメラまたはスマートフォン
プロフェッショナルな写真を求めている方は、デジタル一眼レフカメラの使用を検討しましょう。
予算が十分でない場合は、iPhoneやAndroidスマホから始めるのがおすすめです。スマホでも、撮影環境や設定を工夫し、後で適切な編集を行うことで、十分に美しい写真が撮影できます。
レンズ
一眼レフカメラを使用する場合は、レンズも必要です。
汎用性を重視するのであれば、焦点距離を変えられるズームレンズがおすすめです。一方、焦点距離が固定されている単焦点のレンズは、一般的にズームレンズよりも安価で、より光が入りやすく、明るい写真を撮影できるものが多いです。
レンズの明るさは、F値とよばれる数値で表現されます。F値が小さければ小さいほど、取り込める光の量が多くなります。光の量が多いということは、暗い場所でもノイズの少ない写真をとることができ、背景のボケもきれいにでるということです。レンズには、そのレンズで撮影できる最も小さなF値が書かれています。人気のレンズには次が挙げられます。
- 24-70mm F2.8:風景のようなロングショットから、クローズアップショットまで、幅広い撮影ができるズームレンズ
- 50mm F1.8:一般的に、人間の視野に一番近いといわれている焦点距離の単焦点レンズ
また、レンズの接合部(マウント)の形は、カメラのメーカーやセンサーのサイズなどによって異なるので、注意が必要です。たとえば、ニコンのカメラに、キヤノンのレンズをそのままつけることはできません。自分のカメラにあったマウントのレンズを購入しましょう。
三脚
カメラやスマホを手で持って撮影することもできますが、三脚を使うことで、構図を固定し、ブレのない写真を撮ることができます。安価な三脚でもその効果は十分得られます。
三脚を購入する際は、撮影に使うカメラやスマホの総重量を確認した上で、耐荷重に余裕のあるものを選びます。また、自分の撮影したい角度や高さに設定できるかどうかも確認しておきましょう。
照明用機材
自然光で撮影する場合
自然光で撮影するときは、光を反射させるレフ板(リフレクター)を補助的に使用して、被写体に光をあてます。やわらかい光をあてたい場合は白、曇天や木陰などの暗い場所で強い光をあてたい場合は銀、暖色で拡散させたい場合は金のレフ板を使います。
予算がない場合は、フォームボードと呼ばれる発泡スチロールの板をレフ板代わりに使用するのもよいでしょう。こちらは100円ショップでも購入可能です。
なお、光沢のある商品の撮影時など、反射を抑えたい場合は黒のレフ板を使用します。こちらも、黒のフォームボードや、遮光の黒い布で代用することができます。
人工光で撮影する場合
より安定した環境で撮影したい場合は、遮光された環境で、商品にライトを当てます。撮影用のLEDライトにソフトボックス(光を拡散させる器具)をつけたものを使用するのがおすすめです。ソフトボックスをつけると光が拡散され、強い影が軽減されるので、コントロールが比較的容易になります。複数台あると、商品の見た目に奥行きが感じられるようになります。
背景紙
邪魔な背景の映り込みを防ぎ、商品に視線を集中させたい場合は、背景紙を使用します。写真の中でどのくらいの余白をもたせたいかを考え、商品が十分入る大きめの背景紙を用意しましょう。壁や机にテープで貼って使用することもできますが、背景紙をかけられるスタンドを活用するのもよいでしょう。必要に応じて準備してください。
商品を単体で見せることを重視して撮影する物撮りでは、まずシンプルな白の背景紙を用意することをおすすめします。白背景は商品本体の色の見え方に影響を与えづらく、商品の見た目をしっかりと伝えることができます。また、e-Bay(イーベイ)やAmazon(アマゾン)など多くのマーケットプレイスでは、白背景の商品写真の提出が推奨されています。
色付きの背景紙を使用する場合、商品の性質や色味、イメージを考慮し、適切な色のものを選ぶことが重要です。たとえば、黒は重厚感や高級感を演出することができ、パステルカラーはポップな印象になります。また、料理の撮影で蒸気や湯気などを映したい場合は、暗い背景のほうがはっきりと映ります。
撮影用の背景紙は5,000円程度から購入できますが、費用をおさえたい場合は、画用紙などの厚手の紙で代用するのも手です。100均、画材店、手芸店などで探してみましょう。
撮影ボックス
商品が比較的小型の場合、撮影ボックスを使用するのがおすすめです。
撮影ボックスとは簡単にいうと、無地の箱の中にLEDライトがついた簡易撮影ブースです。背景や照明をそれぞれセットしなくても、箱の中に商品をおくだけで、余計な影をおさえた美しい照明がつくりだされます。天気や部屋の明るさなどに左右されることなく、毎回同じ照明をつくりだすことができるので、いつどこで撮影しても統一感のある商品写真を撮影することができます。
テープ
商品や背景を固定するための、テープも必要です。
商品の固定には、剥がすときに糊が残らないパーマセルテープ(シュアテープ)や、養生テープを使用します。
小道具
商品の雰囲気を演出したり、大きさを示したり、使用シーンを伝えたりするのには、小道具が役立ちます。商品撮影においては、商品の色とマッチして主張しすぎない小物を添えることが、主役となる商品を引き立てるコツです。
たとえば、ジュエリー撮影で高級感を出したい場合、大理石やベルベットの布を使用したり、スタンドを配置したりするのもいいでしょう。逆にナチュラルな雰囲気を出したい場合は、麻や木といった素材の小物や、観葉植物などを添えると効果的です。
商品画像のスタイル
一口に商品画像といっても、さまざまなスタイルがあります。撮影を始める前に、画像の用途やターゲットの好み、伝えたいイメージに合わせて、撮影する写真のスタイルを決定しておきましょう。商品画像には次のような種類があります。
プロダクトカット
商品の特徴を正確に伝えることを目的にしたカットです。色や形、質感などが正しく伝わるように撮影します。商品全体の写真だけでなく、アップの写真、サイズが分かるような写真を撮影して、商品について理解してもらいやすくします。
集合カット
複数の商品を一緒に撮影したカットです。商品のセット内容や付属品をアピールしたり、商品のラインナップを紹介したりするときに効果的です。
詳細カット
商品の特徴や詳細をクローズアップで見せるカットです。材質や色味、素材などをみせるのに効果的です。
スケールカット
商品を小物と並べて置き、サイズ感を意識させるカットです。
ライフスタイルカット
生活のワンシーンを切り取ったカットで、商品のあるライフスタイルをイメージさせます。
着用カット
モデルが衣類を着用したカットです。アパレル撮影でよく用いられます。着用感を伝えるため、モデルの身長体重を併記する場合もあります。
パーツモデルカット
着用カットとは異なり、身体のパーツとともに商品を撮影するカットです。アクセサリーやコスメなどによく用いられます。
白背景のプロダクトカットを撮影する8のステップ
白背景のカットは、背景の色が商品の色に影響を与えず、商品の詳細がわかりやすいため、商品画像の基本とされています。実際、多くのECサイトで白背景のカットが採用されており、一部のマーケットプレイスや、フリマサイトなどでは、白背景での出品が推奨、または義務化されています。
ここでは白背景のプロダクトカットの撮影方法を紹介します。
1. 撮影場所を確保する
まずは、撮影する場所を確保します。
自然光で撮る場合は、窓の近くに撮影用のテーブルを設置してください。直射日光があたると影が強くなりすぎてしまうため、光がやわらかくなるように、窓に対して45〜90度の角度でテーブルを設置しましょう。薄いカーテンなどをひくのも効果的です。
人工光を使用する場合は、照明機材を設置できる十分なスペースを確保しましょう。
2. 背景紙を設置する
商品を上から撮る場合は白い背景紙を商品の下に敷きます。
商品を正面から撮影する場合は、壁とテーブルにかぶるように白い背景紙をテープで固定するか、スタンドに固定してつりさげます。上部を固定したら、下部はなめらかにカーブさせて、水平面へと続くように設置しましょう。
3. 商品とカメラを配置する
カメラを設置し、カメラからよく見える位置に商品を配置します。
商品は背景紙の平らな部分の中央に配置します。周りには十分な余白を確保してください。余白を確保することで背景に余計な要素が入らず、商品そのものが際立つ写真を撮影しやすくなります。
カメラのアングルには次のような種類があります。
- アイレベル:通常の目線で商品を正面から捉える
- 俯瞰:商品を斜め上から捉える
- あおり:商品を斜め下から捉える
- 真俯瞰:商品を真上から捉える
商品が歪んで写らないように、三脚が水平になっているか、傾いていないかを確認してセットします。カメラを設置したら、カメラのプレビューで見ながら、再度商品の配置を調整します。ロゴや、商品の特徴など、一番目立たせたい部分がしっかり映るように、気を配りましょう。
商品をさまざまな角度から撮影したい場合、カメラは三脚につけて固定しておき、商品だけを回転させて撮影します。こうすることで、撮影プロセスの効率化につながるだけでなく、写真の一貫性も保たれるので、編集作業の負荷が軽減されます。
4. ライティングの設定をする
自然光の場合
自然光でのライティングは、天気と時間の選択が最も重要です。晴れか、明るい曇りの日の、午前中から昼ごろまでの時間帯を選び、レフ板で商品の暗い面を照らします。
人工光の場合
撮影用のLEDライトを使う場合、三方向から照らす方法がおすすめです。
まずは商品に対して、前方斜め45度からメインのライトをあてます。次に、メインのライトで背景にできた影をやわらげるために、前方の逆側から少し弱めの光をあてます。最後に、商品の輪郭をきわだたせるように、商品斜め後ろにライトを追加し、立体感が出るように調整します。
撮影環境や光源との距離、光の強さや大きさなどの条件で、光の見え方は大きく変わります。商品の色や材質によっても違いが出ます。商品が一番美しくみえるライティングを探りましょう。
5. カメラの設定を調整する
撮影前にカメラの設定をします。
一眼レフカメラで撮影する場合は、まず次の設定からスタートしてみましょう。
- ホワイトバランス(WB):オート
- フラッシュ:オフ
- 画質設定:最高画質に設定。最大サイズのJPGに。あとでLightroom(ライトルーム)など、RAW画像が現像できる編集ソフトを使用して色を変える場合のみ、編集用のRAWフォーマットを使用する
- ISO感度:100(光の感度を引き上げる機能。ISOが高いほどノイズが出る。ノイズを最小限に抑えるため低めに設定しておく)
- 絞り:F11程度(商品全体にしっかりとピントをあわせるため大きめに設定する)
- シャッタースピード:1/125
カメラの種類や商品、撮影環境によっても、最適な設定は大きく異なるため、設定を変えて試しましょう。
スマホを使用する場合は、商品にピントをあわせて撮影するだけです。機種によってさまざまな設定があるので、明るさなどを変えて最適な映り方を探りましょう。
6. 撮影し、確認する
写真を撮影し、一枚一枚確認します。
見切れていないか、余白は十分にあるか、きれいに光があたっているかなどを確認し、きれいに撮れていないと思ったら調整して撮り直しましょう。スマホやカメラの小さなモニターではわからない所もあるので、撮影結果はパソコンの画面に映して、細かくチェックすると確実です。
RAWフォーマットの場合は、白背景の部分がうっすら灰色に写っているのが正解です。カメラのヒストグラムというグラフで、グラフが右端や左端に極端に偏っていないか確認してください。グラフが右端にあると白飛び、左端に寄ると黒潰れという現象が起き、黒や白の部分の色が、あとで編集できないようになってしまいます。
7. 編集する
Lightroom(ライトルーム)、Photoshop(フォトショップ)などの画像編集ソフトを使用し、撮影された写真に編集を加えることで、仕上がりを高めることができます。白背景の商品写真では、次のような点を意識してみましょう。
- 背景を整える
- 気になる影を取り除く
- 細部が見えるような明るさに調整する
- コントラストを調整する
適切な編集を加えることで、商品の魅力がさらに引き立ち、プロフェッショナルな仕上がりになります。
自分で編集するのが難しい場合、ShopifyのAIツールであるShopify Magicをためしてみるのもいいでしょう。商品と背景の分離、背景の削除やカスタマイズなどの作業を簡単に行うことができます。
8. ウェブ用に画像を最適化する
画像の最適化を行います。写真を最適なサイズにすることで、ウェブでの表示がスムーズになるだけでなく、検索エンジンの最適化(SEO)にもプラスの効果が期待できます。画像サイズと品質バランスをとりながら、一般的には1枚あたり200KB未満を目指すのが理想的です。
無料のツールであればShopifyの画像変換ツールを使用するのが簡単です。
さらに、ImageOptimやTinyPNGなどのツールを利用すると、画質を維持しつつファイルサイズを圧縮することもできます。
写真のファイル形式はJPGにするのが一般的ですが、WebPやAVIFなど、軽量で高品質な次世代画像フォーマットを活用するのもいいでしょう。
まとめ
撮影機材を確保し、撮影の手順やコツを知れば、誰でも品質の高い商品写真を撮ることができます。また、白背景の写真だけでなく、ライフスタイルカットやディティールカットなど、さまざまなスタイルの写真を用意すれば、商品の訴求力を高めることができるでしょう。ネットショップでは、写真が顧客の購入意欲を左右する重要な要素です。本記事を参考に、自宅で商品写真の撮影に挑戦してみましょう。
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商品撮影についてのよくある質問
自宅でも商品撮影はできる?
自宅でも商品撮影をすることはできます。
撮影から編集まで全てスマートフォンで完結させることも可能です。よりプロフェッショナルな画像を求める場合は、一眼レフなどのカメラで撮影することをおすすめします。
自然光と、撮影用ライトを使った照明はどちらがいい?
初心者には自然光での撮影がおすすめです。
自然光はシンプルで、機材もレフ板などの補助程度ですむためコストがかかりません。ただし、自然光は季節や天気、時間で大きく変動するため、再現性は低くなります。長時間、複数日にわたって撮影をするものの、複数の写真で統一性をもたせたいというような場合には不向きです。
撮影用ライトは高額ですが、さまざまな照明を作り出すことができ、再現性も高いです。ただし、照明に対する知識が求められます。こだわってみたい人は挑戦してみましょう。
商品が比較的小型であれば、撮影ボックスを利用するのが手軽です。ただし、撮影ボックスを使用する場合は、撮影できる商品のサイズが限定され、構図や背景が固定になります。状況に応じて使用しましょう。
自宅で商品撮影をするために必要なものは?
- カメラやスマートフォン
- レンズ(スマートフォンで撮影する場合は不要)
- 三脚
- 照明用機材
- 背景紙
- 撮影ボックス
- テープ
- 小道具
文:Taeko Adachi